はじめに

僕はこれまで起業家として、たくさん新しいことにチャレンジしてきました。そして、たくさん失敗してきました。多くのお金や信用を失ったとても苦い経験もあります。あの時ああすればよかったのか、なぜこの時こうしなかったのかと後悔し、自分には才能がない、能力がないと自己嫌悪におちいったりもしました。

 

それでも新しいことを思いついてしまうと、どうしてもやらずにはいられない自分がいます。 こりずに何度も何度も失敗を繰り返しているうちに、たまに成功することがあり、それを人は 「すごい才能だ」「とても優秀だ」と評価してくれます。それでよく「成功の秘訣は?」と聞かれるのですが、「それは僕が教えてほしいです」としか言えません。これは決して謙遜ではなく、「成功するにはどういった能力が必要か?」と聞かれても、どうにも答えられないのです。
成功するのに必要な「能力」ってなんなのだろう?
そもそも「能力」っていったいなんだ?
学校の教育についても同様です。僕は世界中の人工知能(AI)を開発している会社にたくさん関わっていますが、人工知能のパワー、その発達のスピードには目をみはるばかりです。 その一方で、「このままだと、なんかマズイんじゃないか?」という不安も感じます。最先端の人工知能にふれればふれるほど、学校で行われている教育の内容がその意味をどんどん失いつつあると感じるからです。

 

時代はこんなにも変わっているのに、学校の教育は、僕が受けた年くらい前と内容もスタイルもほとんど変わっていません。当時の僕でさえ「こんなつまんない勉強して、いったいなんの意味があるんだろう?」と思っていたので、今の子どもたちがそう思うのはなおさらでしょう。

 

学びって本来はすごく楽しいことのはずなのに、どうして学校の勉強はつまらないのだろう? 人生は本来すごくワクワクするもののはずなのに、どうしていつも不安を感じながら生きていかなければならないのだろう?

 

そんな疑問で頭がいっぱいになりました。そこで、この疑問の答えを求めて、行くあてもなく探究の旅に出ました。旅に出てみてわかったことは、僕の前にもたくさんの旅人たちが刺激に満ちた旅をしていたことです。時に彼らの旅を追体験してみたり、ちょっと寄り道してみたりして、僕自身その旅を大いに楽しみました。

 

この本に書かれているのは、その旅路の記録です。結論よりも、僕がどんな問いを立てたのか、どんな探究をしたのか、というプロセスそのものを詳しく書くことを意識しました。なぜなら、同じように疑問を持った人たちの旅の参考に少しでもなればと思ったからです。

 

ということで、僕が大いに影響を受けたり、インスピレーションを与えてくれた人たちの考えをなるだけ多く紹介しています。ちょっと読みにくいかもしれませんが、彼らが人生をかけて考え抜いたことは、じっくり味わいながら読むだけの価値があります。原典を巻末にまとめてありますので、それらを読むだけでも、ちょっとしたブックガイドとして楽しめるのではないかと思います。

 

僕の旅はともかく、彼らの探究の旅はとっても刺激的でおもしろいので、少しでも興味を持ったら彼らの本を読み、友だちと対話をしたりしながら、一緒に旅に出てみてはと思います。

 

それでは、よい旅を!

 

本編に入る前に、ひとつだけ申し上げておきたいことがあります。もし「ああ、自分もそう思ってたんだよね!」と思い、自分の考えを表現するのにちょうどいいところがあれば、いくらでも引用して使ってかまいません。僕の許可を得る必要はありません。
なぜなら、僕のこの文章も誰かのものをどこかから私淑(=直接に教えは受けていないけど、ひそかにその人を師と尊敬し、模範として学ぶこと)してきたものばかりだからです。もちろん、現代の著作権法の考え方をクリアするために、うまく自分の言葉に書きかえてはいますが、だからといって自分のオリジナルの論だと言う気はさらさらありません。大事なのは、考えや情報が共有されることなのですから。

 

孫泰蔵

本書目次
はじめに
父からの手紙
第1章 解き放とう 
第2章 秘密を解き明かそう
第3章 考えを口に出そう 
第4章 探究しよう
第5章 学びほぐそう
おわりに 新しい冒険へ
冒険の書 AI時代のアンラーニング 孫泰蔵
taizoson.me
冒険の書 AI時代のアンラーニング 孫泰蔵