はじめに
挿絵 父からの手紙

君へ

この本は、タイトルにあるとおり、冒険者のための本だ。
冒険とは「危険を承知で、成功するかどうかわからないことをあえてやってみること」と辞書にあるけれど、父さんはこの本を、君がそういう人生の冒険に実際に出た後に読んでほしくて書いた。

だから、最初にあえて言っておくけれども、もし君がまだ冒険に出ていないのなら、どうかこの本は読まないでほしいんだ。なぜなら、この本は実際に冒険に出て、本当に実感がわいた時にしか伝わらないことを書いたから。それを事前に知って頭でわかった気になってしまうと、実際の旅の時に見逃してはいけない、とても大事なことをみすみす見すごしてしまうかもしれないからなんだ。

そもそもこの本を書こうと思ったのは、君はもう覚えていないだろうけど、君 が小学生の頃のある朝、僕に放ったひと言がきっかけだった。ゲームに夢中になっ ていた君に、遅刻すると面倒だと思った僕が「早く学校に行くよ!」と急かしたところ、君は「もっと遊びたいよ!」と学校に行くのを渋り、僕をじっと見つめ、泣きながらこう問うてきた。

「ねえ、なんで学校に行かなきゃいけないの?」

そこで僕は思わず黙りこんでしまった。そうたずねられてうまく答えられない自分に気がついてしまったんだ。自分も子どもの頃、こういうシンプルな問いをたくさん持っていたように思う。それがいつしか、まわりの「あたりまえ」によって消えていった。
消える前には少なからず葛藤があったはずだけど、いつしかそれも忘れてしまうものなのかもしれない。

君が学校に行きたがらなかった理由、それは明らかにそのゲームのほうが楽しかったからだよね。そもそも、なぜ学校の勉強はあんまり楽しくないのだろうね。

大人たちはこう言う。

「勉強しないであとあと苦労するのは本人であり、それを見すごすわけにはいかない。勉強をしなかったせいで人生の選択肢が狭まるようなことがあったら、みじめな気持ちになるだろう。だからこそ、今は心を鬼にして学力をつけさせなければならない」

そして、君自身もこう思っているかもしれない。

「自分はまだ学生だから、ガマンして勉強して、いつか自由を勝ちとるんだ」

その気持ちはよくわかるよ。なぜなら、自分もそういう人間だったからね。僕も「いい大学に入りさえすれば、人生の選択肢が増える。自由になれる」と信じていた。だから、勉強する意味を「試験に合格すること」にしか見いだせなかった僕の受験勉強は苦痛の極みだった。ノイローゼ一歩手前まで追いつめられた僕は、大学生をうらやみ、社会をうらみ、おのれの運命を呪った。

あれから30年近くがたったけれど、当時の自分をふり返るたびに「本当にあれでよかったのだろうか?」と心にひっかかるものがある。

「なにかを新しく知ることは、本来すごく楽しくて、心がときめくことなんじゃないのか?」

そんな素朴な疑念がどうしても晴れないからなんだ。なのになぜ、あんなに苦しかったのか。そしてその苦しみの先に、果たして「自由」はあったのか。

そもそも、なぜ子どもは学校に行かなければならないのだろう。
なぜがんばって勉強をしないといけないのだろう。
なぜ好きなことをしたまま大人になれないのか。
そんな疑問がたくさん浮かんできて、いてもたってもいられなくなった僕は、 自分なりの答えを求めて、探究の旅に出ることにした。

その旅を経て思うのは、もし僕が今、君のように生徒だったら、学校には行かないだろうということ。そのかわり、自分が今好きでやりたいことをとことんやるだろうね。

それは、学校がくだらないとか、学校に行く意味がないとか、そういうことではなく、今どうしてもやりたい、今しかない、と思うことに専念するだろうということ。

なぜなら、自分がやりたいと思うことがいつでもできるのと同じように、勉強だってやりたくなった時にいつでもできるからだよ。「今学力をつけないと大人になってから苦労する」なんていうのは、世界を変える気がない大人の戯言にすぎない。

やりたいことがあるのに、なぜガマンをする必要がある?

好きなことがあるなら、なぜそれだけを一日中やれるように環境を変えない?

それが自分を変える、つまり、世界を変えるってことだろう?

「それはお父さんが大人だから、一回経験してるから、そう思えるんじゃないの?」と君は思うかもしれない。だが、僕は「そうじゃない」と言いきれる。なぜなら、僕も少し前に、君の「学校」にあたるものをことごとくやめて、冒険に出かけたからだ。

年齢や立場、世の中の常識など、「大人」と呼ばれる人たちの言うことに縛られることなく、自分の感覚を信じて冒険に出ると決め、「危険を承知で、成功するかどうかわからないこと」をあえてやってみたんだ。

やりたくもないことを、自分をだまして続けることはできない。「そんなこと やってる場合じゃない」と思ったんだ。

つまり、なにかを始めたり学んだりするのに、年齢や時期は関係ないってこと。何歳からでも、いつでも、今すぐにでも、自分を変えて行動することはできる。

僕はこの生命がつづく限り、本気で世界を変えるために冒険を続ける。そんな父さんが、君が実際に冒険に出ると決断し、大いなる一歩を踏み出した時のために、もう二度と会えないかもしれないと本気で魂を込めてこの本を書いた。

君は君、僕は僕だ。君を僕の型に入れようというような気持ちはみじんもない。君は君の持っているものを、わずらわされることなく発揮すればそれでいい。
不安と興奮とで眠れなくなるほどのことを決意して、先の見えない道なき道を進む。「やっぱりやめようかな」と迷うこともあるだろう。正直、「怖い」と思うかもしれない。恐怖を乗り越え、勇気を出して自分の道を切りひらく決断をした なら、ぜひこの本を読んでほしい。

もし、今まさにそういう状況にいるのなら、ぜひ手にとって今すぐ読み進めるといい。ここには父さんが旅をして知り得た、世界の秘密の一端が書いてあるから。

父より

本書目次
はじめに
父からの手紙
第1章 解き放とう 
第2章 秘密を解き明かそう
第3章 考えを口に出そう 
第4章 探究しよう
第5章 学びほぐそう
おわりに 新しい冒険へ
冒険の書 AI時代のアンラーニング 孫泰蔵
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冒険の書 AI時代のアンラーニング 孫泰蔵